笑いながら首をしめて
やわらかに毒をふくんで
愛してると言いながら
断頭台まで導いて
「・・・いない?」
眉間のしわが、普段よりもニ割り増しになる。
「ああ。」
「練習はとっくにはじまっているだろ。」
「そうなんだが・・・」
不機嫌な彼を前に、何故か自分がしかられてるような気分になる。
「教室にもいないようだし、用事で帰ったのかとも思ったんだが。」
「そんな事は聞いていない。」
「だよなぁ。」
大石は、少しうなだれたようにうつむいた。
外からは、ボールを打ち合う音がテンポよく響いている。
それとは対照的に、部室内はなんとも険悪なムードだ。
「まったく・・。」
手塚は脱ぎかけたシャツのボタンから手を離した。
「大石、悪いが・・」
「不二を探しに行くんだろ?」
「あぁ。」
「他の部員にはいつもどおりのメニューをさせておくよ。」
いつもどおりに笑って、手塚の肩を二回ほど叩いた。
「心当たりでもあるのか?」
「ない・・こともない。」
手塚には珍しく、確証のない返答を返す。
「ま、お前が帰ってきてから、不二のやつ、少し変だったし・・ゆっくり話でも聞いてやれよ。」
気遣いのつもりで言った言葉だったが、手塚は視線を返しただけだった。
「・・・いい天気。」
少しまぶしそうに、空を見上げた。
大きな電波塔がその空に向かって、そびえている。
寝転んだ芝生を風が駆け抜ける。
不二は携帯を取り出し、時間だけを確認する。
先ほどから何度となく、コールが鳴っていたのだが、それに出るつもりはさらさらなかった。
(怒ってるだろうな)
そう思ったけれど、身体は鉛のように重たい。
身体すべてを大地にあずけ、身動きせずに。
ただ、聞こえるのは自分の心音。
(・・探しにくるかな。)
あからさまに不機嫌そうな、彼の顔が浮かんだ。
「・・グランド100周。」
言いそうな言葉を口に出してつぶやいてみる。
ふいに、うっすらと開けていた瞳に影が落ちた。
「200周だ。」
想像したとおりの不機嫌そうな彼が、真上から見下ろしていた。
「やぁ、手塚・・よくココがわかったね。」
不二は悪びれた様子もなく、いつものように笑みを刻んだ。
「一度、来たからな。」
「あぁ、そうだったね。」
忘れてた・・・
不二は起き上がることもせずに、また目を閉じる。
「おい・・」
足元で気持ちよさそうに横たわるそれを、手塚は足でかるく蹴った。
「・・ひどいんじゃない?恋人を、足で蹴るなんて。」
感覚で足蹴にされたのがわかったのか、不服そうに声を上げる。
「そうか?」
「そうだよ。」
「あぁ、そうかもな。」
『ダンッ』
手塚の両手が、力強く不二の両肩を押さえつけた。
いきなり自分の身体に圧力を感じて、思わず目を見開く。
「・・これで、いいか?」
「なにやってんのさ。」
「お前が、眠ろうとするから起こしただけだ。」
手塚はゆっくりと身体を起こし、不二の隣に座った。
「別に、眠ってたわけじゃないよ。」
そういいながら、手塚の肩についた草を払ってやる。
「じゃあ、部活をさぼっていったいなにをやってたんだ、こんなところで。」
そこは学校からは、そう遠くはない場所だった。
ただ、高台に電波塔だけがそびえていて、人が好き好んで来るような場所でもなかった。
『一度、来たことがある』
それは季節が今にかわる前のことで、思い出すのに少し時間がかかった。
一番好きな場所なのだと、あの時も寝転がって、そう言っていた。
「死体ごっこ。」
「は?」
「だから、なにをしてたのか聞いたんでしょ。」
「そうだが?」
「死体ごっこ。」
手塚は、深く大きくため息をついた。
「なぁに、そのため息。」
「お前と話すと疲れる・・・」
本当に疲れたように、目を伏せて、少し落ちた眼鏡を左手で押し上げる。
「死体みたいに、寝転がってる。」
大地にまかせた身体が、どこまでも沈んでいくかのように。
そのまま、身を任せて、沈んでいきたいかのように。
不二の呼吸は消え入りそうなくらい静かだった。
「死にたいのか?」
なんとなく、そう聞いてみる。
消え入りそうな呼吸が心配だったのかもしれない。
「君が、殺してくれるなら。」
不二は少し目を開いて、傍らに座る手塚を見つめた。
あまりにも真剣な表情だったから、思わず言葉を飲み込んだ。
「・・冗談、だよ。」
そんな手塚を気遣ってか、またいつものように笑った。
「そんな冗談は好きじゃない。」
「そうだろうね。」
不二は手塚の肩にそっと触れる。
「完全復活、おめでとう。」
言葉はやわらかだったけれど、表情は複雑に見えた。
「どぉも。あまり本心に聞こえないのは気のせいか?」
「えー。そうかなぁ・・全国大会の前に君が万全の状態で復活し、チームの志気は高まったし、戦力も大幅にアップ。万々歳じゃない。」
言いながら目をそらした。
こんなことを言うなんて、らしくない。
お互いにそう思っていた。
「そして、君はどんどん遠く離れていくね。」
手塚の肩に触れたままの手が、力なく落ちた。
「不二・・・?」
「やっと追いついたと思ったのに。」
落ちた手を、ぎゅっと握り締める。
「いつだって、君は・・・・」
言葉をやめた。
いってしまっても、どうにもなりはしないから。
手塚も、先を問うようなことはしなかった。
また、風だけが沈黙の中をすり抜けた。