まるで
首を絞めあうような恋だから
その季節とは似つかわしくない湿度が全体を覆っていて、落ちる汗さえ乾くことなく
身体にじっとりとしみ込んだ。
ただ、不快感だけが増すその汗を、今すぐにでも洗い流したい衝動煮かられながらも
滑りそうなグリップを、きつく握り返した。
「チッ・・」
跡部は小さく、舌打ちをする。
もう何度目か、自分自身に飽き飽きした。
「なんや、跡部、調子悪いなぁ。」
ネット越しの忍足が、少し愉快そうに笑った。
「こんなジメジメした天気の時に、調子いいわけねぇだろうが。」
「そうか?俺は絶好調なんやけど。」
「お前みたいな変人と一緒にするな。」
「失礼やなぁ・・まぁ、こんな天気に元気なのは俺みたいに、陰湿な人間か、青学の太陽が服着て歩いてるような、坊主だけやろうけど。」
そういって、隣のコートにいる、菊丸に目をやった。
天気などお構いナシに、相変わらずなテンションでプレイしてるのが見える。
「あ、陰湿って自分で言ったとこは突っ込むとこやで?」
「うるせぇ。」
跡部は思いっきり、サーブを相手のコートに叩きいれた。
「不意打ちなんて、キングのすることじゃないなぁ。」
「黙れ。」
忍足は転がったボールを2、3度付きながら、ふと跡部の後ろのほうをじっと見つめた。
「なんだよ・・早く打ち返せ。」
「ああ、もう一人おったわ・・・」
その言葉の先には次の試合を待っている六角の選手たちが見える。
「不快指数なんてもろともせずに、相変わらずすがすがしく笑ってんなぁ。」
跡部もつられるように、振り返った。
たわいなく談笑する佐伯と天根。
それは多分、いつもの日常と変わらないことで。
屈託のない笑顔は、たしかにこの湿度さえも打ち消してるように見えた。
「忍足・・」
「あ?」
「さっさと、打ち返せ。」
「まぁ、そうあせらんでも。」
「うるさいっ。」
普段はあまり声を荒げたことのない彼が、そのよく通る声で空気を一掃した。
苛立ちが募ったのを、この天気のせいだと思い込むのにはとても都合がよくて。
そのまま立ち消えてしまうのを、ただ知らずに望んでいたのかもしれなかった。
「・・・・チッ。」
また舌打ちをした。
頭から水道の水を何度もあびる。
目をつぶると、自分の苛立ちの理由を知ってしまうような気がして、
眼前を流れゆく水を凝視した。
水は漠然と流れていく。
いっそ、すべてを流してしまって。
何も知らない自分になれたら、どこまでも強くいられたのに。
いつしか、その弱さだけが、露呈した。
笑いあうことが不自然な二人。
それにすら嫉妬した。
「・・・跡部・・?」
ふと呼ばれたのに、振り返る余裕などなかった。
しかし、その人物は何も知らず、近寄る。
「コートにラケットを放り出していくなんて、君らしくないんじゃないかな。」
佐伯は水道の横に、そっと彼のラケットを立てかけた。
跡部は視線の横に少しだけ垣間見た彼の両肩を、強引に掴んだ。
「っ・・跡部・・・?」
「あとで、俺の部屋に来い。」
「・・でも・・・」
その手に力を込めた。
「拒否できないことぐらい、知ってるんだろ?」
そのまま、突き放した。
どうせなら、その存在すらも突き放せたらよかったのに。
その部屋に入るのをためらった。
どうしてあいつだけ個室なんだと、天根が文句を言ったのが頭をよぎる。
それを思い出して、少し笑った。
一度深呼吸をして、ノブをゆっくり回す。
扉は、重い気がした。
「跡部?」
ゆっくりと部屋に入る。
無機質なその部屋のベットに腰をかける彼がすぐ目に入った。
「早かったじゃねぇか。」
「遅くなると、なんて言われるかわからないからね。」
彼は少し笑って。
手を伸ばした。
まるで、その手に引き寄せられるかのように、身体が動いたけれど。
あえて、とどまった。
「どうしたの?今日、変だ。」
跡部は深いため息をひとつ落として、立ち上がる。
そのまま、強引に腕を引っ張り、ベットに押し倒した。
「お前は黙って俺に抱かれてればいいんだよ。」
汗ばんだ、首筋にキスをする。
それだけで身体が震えた。
「・・っ・・おかしいよ・・・」
「黙れ。」
行為を逃れようとした佐伯の手を押さえる。
その華奢な手首に、うっすらと赤い痕が付いた。
「・・痕が着いたら、ポロが着れないんだけど・・・」
「そうかよ。」
跡部はその白い首筋に痛いくらい口付けをする。
痛みで身体をよじった。
それでも容赦なく、唇を押し付ける。
「これで、明日はポロなんて着れねぇな。」
離したあとには、赤くついた痕。
「跡部・・俺を困らせたいの・・・?」
ふいに視線が交差する。
「・・・別に、そうゆうわけじゃねぇ。」
「そう?とてもそうゆう風に見えるけど。」
当たり前になるほど繰り返された行為なのに、どこか違和感を感じた。
それを感情のせいだと気づくには、あまりにも幼い二人。
「困らせる気はないが・・・」
剥ぎ取った上着の下にも容赦なく、痕をつけていく。
佐伯は困ったような、少し泣きそうにも見えるような顔をした。
「そんな顔をされると、もっと困らせたくなる。」
「・・悪趣味だね・・」
「それはお互い様だろ?」
ハーフパンツの上から指でなぞる。
「あっ・・」
「男相手にココをこんな風にして、いい趣味とはいえねぇな。」
それをおろして、直接触れた。
「・・悪いな、ミーティングがあるから、ゆっくり遊んでやれない。」
「・・・自分が呼んでおいて・・・」
「はっ。まるで、ゆっくり遊んで欲しいような言いぐさだな。」
「そうゆう意味じゃ・・」
跡部はふいに彼を抱きしめて、小さく囁いた。
「今日は、お前が悪い。」
「えっ。」
まるで、きまぐれのようなしぐさに乗せた言葉をもう一度聞き返そうとした。
けれども、それは唇でふさがれて。
「・・意味が・・っ・・わかんない・・」
開いた唇の隙間から、言葉をつむいだ。
彼は空いてる手を器用に動かしながら、もうひとつの手で佐伯の頬に触れる。
「意味なんてねぇよ。」
合わさる視線がいつもと違うと思った。
「そこにお前がいた、それだけだ。」
多分、それは伝わらない想いでも。
むしろ、その想いすら無意味だと。
重なった身体だけ
それだけが、その存在。
強引に、押し入った。
「・・いたっ・・・」
まだ、準備もしていないそこは乾いた悲鳴をあげる。
「さすがに、キツイな。」
跡部は少し眉をひそめた。
まるで何かに怯えるように、強引に重なった。
その光でかき消されないように。
すがるように痕を残した。
「っ・・あ・・。」
傍にあったシーツをきつく掴んだ。
動かされるたびに、何度も激痛が背中を走る。
苦痛に耐えるその頬に涙がつたった。
「佐伯・・・」
その頬にキスをする。
それがあまりにも優しくて。
錯覚しそうな自分を責めた。
シーツを握っていた手が、少しだけやわらいだ。
彼はその佐伯の手に自分の手を重ねた。
「・・・やっぱり・・っ・・変だよ、お前。」
佐伯は痛みに押し流されながら、その行動に戸惑った。
「これじゃあ、まるで僕たち・・・・」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
あまりにも愚かで不似合いで。
かき消した。
跡部はきつく、その手を握った。
「くだらねぇ・・・」
「あぁ、まったくだ。」
まるで
張り裂けそうなキスをした。
ほんの少しだけ、日がその窓に差した。
目を閉じている彼の髪を、眩しいほどに照らす。
跡部はその髪に触れた。
「・・知らない顔してんじゃねぇよ・・」
聞こえないぐらいの声でつぶやいた。
会った回数よりも重ねた回数が多いほど。
求めれば求めるだけ。
お互いの距離は、まるで見えなくなるくらいに。
髪に触れる手に気づいたようにゆっくりと目を開ける。
「僕らにはお似合いの罰だ。」
そう言って、佐伯は困ったように笑った。
お互いの首元に手を掛け合って
残すのはその痕と苦しみと。
そのまま死ねたらいいのにね。
笑った誰かがそう言った。
Strangulation
special thanks
illustration aoyagi azusa
END
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