蒼天の空にまっすぐに伸びた

雲の反乱

 

 

 

「天才的だろ?」

「え。それは先輩が?」

「もちろん。」

「いや、この場合天才的とかそうゆう問題じゃ・・・」

ブン太は傍にいた赤也の頭を力いっぱいはたいた。

「逆らう後輩はかわいくないっ。」

「・・って・・暴力反対。」

「愛の鞭。」

「嘘―っ。」

赤也がふくれていると、試合を終えた仁王が近づいてきた。

「何の話?」

「いや、2年の超美人が先輩に告ったって話っす。」

ブン太はVサインをしながら、大きくガムをふくらませた。

「な、天才的。」

「だから、違うって・・」

「うるさい。」

もう一度はたいた。

「で?」

仁王は流れ落ちる汗を拭きながら、短く言葉を区切った。

「付き合うかってこと?」

ガムをしぼませて、天を仰ぐ。

「どうしよっかなぁ。」

その場にするどい声が飛んだ。

「赤也!次、コートに入れ。」

「はぁい・・」

赤也は真田の声にせかされて、叩かれた頭をかきながら重い腰を上げた。

ふいに、会話が途切れたのでしばらく沈黙が続いた。

「・・・で?」

仁王はもう一度、うながした。

「付き合うかも。」

「へぇ。」

ブン太は立っていた仁王を下から見上げた。

「別に、俺、お前のこと好きじゃないしぃ?」

「・・へぇ。」

「付き合うのに支障はなくない?」

少し意地悪そうに笑って、またガムを膨らませた。

「まぁ、頑張れ。」

仁王は少しも動揺した様子もなく、そう言い捨てた。

逆にブン太の方が動揺した。

「何!?それだけ?!」

「それだけって・・別に他に言うこともないじゃろ。」

「あるだろ、普通っ。」

「たとえば?」

ブン太はぐっと言葉に詰まって、声が小さくなる。

「・・・たとえば・・・」

「たとえば?」

「・・付き合うなとか・・・・」

「なんで?」

「なんでって、お前。」

仁王はタオルを肩にかけて、いつもどおりに笑った。

「お前は俺のこと好きじゃないんじゃろ?」

「・・そうだけどさっ、お前は俺のこと・・・・」

「何?」

「・・・・好き・・・だろ!!」

思わず、語尾だけが強調されて大きくなる。

言っていて恥ずかしくなり、思わず顔を下に向けた。

「それは、自分は好きじゃないけど俺には好きでいろってゆうわがままか?」

近くで聞こえる声も今はとても遠くに感じた。

それは自分のせいなのだろうけど。

「わっ、わがままで悪ぃかよっ。」

売り言葉に買い言葉。

「わがままはかまわんが、そうゆうのはジャッカルか、その年下の美人にきいてもらえや。」

言い換えそうにも言葉に詰まる。

苦虫を噛み潰したような顔で睨むしかできなかった。

「・・次、丸井、コートに入れ。」

「あーもう、はいはいっ。」

乱暴にベンチから立ち上がって、赤也と入れ替わる。

汗だくになった赤也が仁王の顔を覗いた。

「先輩、なんか、えらく不機嫌そうなんすけど、なんかあったんすか?」

仁王は首をかしげながら、知らない顔をする。

「さぁ?年頃なんやろ。」

「・・年頃・・っすか?」

「そう、年頃。」

赤也はきょとんとしていたけれど、仁王はどこか満足そうだった。

 

 

 

 

 

「・・・お疲れっしたぁ。」

すっかり日も落ちて暗くなった部室で、誰よりも先に着替えた赤也が声を出した。

「先輩、帰りマック寄って行きます?」

視線はブン太をとらえている。

「・・今日はパス。」

ぶっきらぼうに答えて、シャツのボタンを乱暴に閉じていた。

まだ、機嫌は直ってない様子がよくわかる。

「代わりに俺がつきあおか?」

着替え終えた仁王が赤也の肩をつかんだ。

「ちょっとまてっ。」

それをブン太が言葉で制した。

「仁王、俺はお前に用がある。」

「何?」

「・・ちょっ、来いっ。」

腕を強引につかんで、外に引っ張り出す。

「赤也、悪い、またな。」

仁王は開いた方の手をひらひらと振った。

「はぁ・・お疲れ様っす。」

その様子をあっけに取られたような顔でみつめていた。

「あいつら、何かあったのか?」

ジャッカルが首をかしげながらつぶやく。

他の三人は我関せずといった表情で黙々と着替えている。

「さぁ?年頃・・みたいですよ?」

「なんだそりゃ。」

あきれた様子で結局、二人の後を見送っていた。

 

 

 

「痛い・・・いい加減、離せ。」

その言葉でブン太はようやく、手を離した。

「で、用件は?」

「決まってんだろ、さっきの続きだよ!」

「さっきの?」

「話の続きっ。」

「あぁ、あのことか。」

ブン太はわざと仁王よりも一歩前を歩いた。

「むかつくんだよ、なんか。」

「何が?」

「なんかだよ、なんかっ。」

「日本語、おかしい。」

「だいたい、なんで俺がこんなに不機嫌にならなきゃいけないんだ。」

ふくれっつらで、後ろを振り返る。

そこには相変わらず、笑みをたたえている彼がいて

怒りをさらに増幅させた。

「なんで不機嫌かほんとにわからんのか?」

「わかんねぇーからむかつくんだよ。」

「教えてほしい?」

「お前にわかんのかよ。」

仁王は一歩前に出てブン太に並んだ。

「それはお前が俺のこと好きってゆうことやろ?」

ブン太はしばらくきょとんとしていて、その後に真っ赤になる。

「ばっ、お前なに言ってんだよ!」

「要するに俺がヤキモチやかなかったことに腹を立ててるってこと。」

「・・・だって、お前、俺のこと好きじゃねぇし。」

仁王は顔を覗き込んで笑う。

「俺がいつ、お前のこと好きじゃないって言ったんじゃ?」

「わがままっていっただろうが。」

「わがままとはいったけど、一言も好きじゃないとは言ってない。」

「だけどっ。」

「お前が俺のこと好きじゃなくて、俺には好きでいろってことはわがままやと思うけど、お前が俺のこと好きなら話は別じゃ。」

ブン太は彼の肩を思いっきり突き飛ばした。

「このっ・・詐欺師っ。」

「そら、どうも・・いや、だましてないし。」

「むかつくっ。」

「お前が俺を試そうとするのが悪い。」

結局、また言葉に詰まってしまうのだ。

口でこの男に勝てるわけないとわかっているんだけど。

「で?俺のこと好き?」

仁王は意地悪そうにそう聞いた。

「別にっ。」

「へぇ・・そんな言い方する?」

「あーもうっ!好き、好き、大好きですっ!これで満足・・・・・・」

ふいに隣を見たら、銀色の髪が眩しくて。

それに目を奪われてるうちに、唇が重なって。

 

「俺も好きじゃ。」

 

見慣れた顔が、今は違って見えた。

 

 

蒼天の空にまっすぐに伸びた

雲の反乱

 

結局は蒼に取り込まれて消えてしまう

空の戯言

 

 

END

後書き