触れるのをためらった。
それを
突然射した
光のせいにした
「跡部くんでも、水道の水飲むんだね。」
水を出したまま、声がしたほうを振り返る。
「佐伯。」
「なんか、珍しいなって思っただけなんだけど。」
跡部は何も言わず、水道の水を止めた。
上にかけてあった、タオルで口元を拭く。
「暇そうじゃねぇか、佐伯。」
「そうでもないよ?」
「せっかく、選抜メンバーがそろってんだ・・こんなとこで油売ってないで試合でもしてきたらどうなんだ。」
「俺と話するの、そんなに嫌?」
「別に。」
タオルを肩にかけて、横を通り過ぎようとした。
「ほら、逃げてる。」
佐伯は少し笑って半歩後ろにいた跡部のほうをみた。
その瞬間。
今まで明るかった視界がふいに遮断されて。
少したってから、唇が重なったぬくもりに気づいた。
「・・・これで満足か?」
少し離した唇から、澄んだ声。
眩しくて眩暈さえおぼえた。
「君の方こそ、暇なんじゃない?俺にキスするなんて。」
「はっ。」
跡部は口元に笑みを浮かべて。
「モノ欲しそうな顔して、何言ってんだ。」
「自信過剰だなぁ、相変わらず。」
「お互い様だろ。」
「俺は自信なんてないよ。」
「へぇ。」
佐伯の手が、跡部の髪に触れた。
「こと、君に関しては自信なんてないね。」
「そのわりには、やけに絡むじゃねぇか。」
「ほら、好きな子にはちょっかい出したくなるってやつだよ。」
触れていたその手を、払われた。
「気安く触んな。」
「先に触れたのは、君なのに。」
「触れられるのを待ってたものに触れるのの、どこが悪い。」
「ずるいね、跡部くんは。」
佐伯は苦笑した。
「ずるいのはお前だ。」
青々としげった木の隙間から、光が射した。
その光が眩しすぎて。
二人の間をそれすら邪魔した。
「お前は、そうやって挑発して、俺がくるのを待ってる。」
光をさえぎるように、跡部は一歩踏み出して、佐伯に近づく。
「俺は別に、てめぇの挑発にのってるわけじゃねぇぞ。」
「じゃあ、何?」
ふっと笑って。
「おもしれぇだろ?その方が。」
近づいた顔があまりにも綺麗で。
触れる唇が近づく瞬間さえ、目をつぶるのを忘れてしまった。
「サエさんっ。」
あと、少しで触れようとしたお互いの唇は、寸前のところで声にさらわれた。
佐伯の後ろのほうで、天根が小走りで近寄ってくるのがわかる。
その声で、誰だか判断した佐伯が振り返ろうとした瞬間。
「・・・っ・・」
その丹精な顔は綺麗な手で、挟まれて固定され。
先ほどキスしたときよりも、荒く、噛み付くような熱で。
奪われた。
「サエさん!」
天根が伸ばした手が、佐伯の肩に届こうとした距離まで。
つかまれた肩の勢いで、二人は離れた。
「・・・バネさんが、呼んでる。」
「うん、わかった。」
いつものように優しい顔で笑った。
「じゃあ、また。」
天根に急かされる様に、その場を立ち去ろうとした佐伯を呼び止める。
「おい、佐伯。」
少し離れて、その声に振り返る。
「ちゃんとその二年に教育しておけよ、邪魔するなってな。」
天根がいらだった表情でこちらを見ているのさえも、受け流して。
彼もまた、いつものように、その余裕の笑みで笑っていた。
だいぶ、離れて佐伯が立ち止まる。
「サエさん?」
天根が佐伯の顔を覗き込んだ。
「・・・・駄目だなぁ、俺は。」
太陽の光を手でさえぎって。
「人の手の内なんて、ガラじゃない。」
その表情は光でさえぎられた。
「・・・だせぇ・・」
跡部は先ほどまで触れていた唇をぬぐった。
「ガラじゃねぇだろ・・」
その表情も光が隠して。
触れるのをためらった
それを
眩しすぎた
彼のせいにした
「shading」
END
後書き