「雨、好きなの?」

 

雨音がその言葉をかき消した。

ただ、存在に気づいてこちらを向いたので、もう一度聞いた。

 

「雨・・好きなの?」

 

目前のテニスコートは振り続ける雨を、ただ受け止めている。

 

雨をしのげるような場所は、倉庫の軒下位しかなくて

それでも時折落ちる雨粒が、跡部の肩を濡らしていた。

 

「別に、好きじゃねぇよ。」

「じゃあ、なんでこんなとこに突っ立ってるの?」

「雨が降ってきたんだ、雨宿りすんのは当然だろうが。」

「ふぅん・・・」

 

リョーマは少しイタヅラっぽく笑う。

「跡部さんなら、すぐに車とか呼びそうなのに。」

雨宿りをする彼はあまりにも不似合いだったから。

 

「大きなお世話だ。」

 

そう言いながら、彼が少し笑った気がした。

 

リョーマは持っていた傘を少し、跡部のほうに傾けた。

「肩、濡れてるよ。」

「あぁ、そうだな、お前が傘を傾けたおかげで余計濡れた。」

「そうゆうつもりじゃなかったんだけど。」

「どうだか。」

 

傾けた傘を元に戻した。

 

「帰らないのか?」

「あんたこそ、帰らないの?」

「この雨じゃ、当分、出れねぇだろ。」

「お迎えは?」

 

その言葉には答えずに、少し目を閉じた。

まるで、鳴り止まない雨音を聞くように。

 

「やっぱり雨、好きっぽい。」

「しつこい。」

「最初、あんたを見かけたとき、雨宿りじゃなくて雨を見てるような気がしたんだ。」

リョーマは傘を少し後ろに傾けて、開いた隙間から跡部を覗いた。

「結局、今だって帰ろうと思えば帰れるのに。」

跡部は、ふっと笑ってリョーマをみつめた。

 

「雨を見てるなんて、どこの詩人だよお前は。」

「違うの?」

「半分は正解だが、別にそれだけで帰らないわけじゃねぇ。」

「他に理由なんてあるの?」

「・・・・決まってんだろ。」

 

彼は一歩離れた場所にいたリョーマを引き寄せた。

 

「お前がいるから帰らない。」

 

そのまま、強引に唇を落とした。

 

傘が、足元に落ちて。

浸透する雨粒が、二人を濡らした。

 

「・・・ばっかじゃないの・・・?」

リョーマは傘を拾って、少し濡れた肩を払った。

「ムードもかけらもねぇな。」

「ムードなんて、どこのロマンチストだよ、あんた。」

 

跡部はもう一度、唇を寄せようとしたけれど

それは傘に阻まれた。

「じゃあね、跡部さん。」

リョーマはくるっと背中を向けた。

 

先ほどよりも少し弱まった雨脚の中、軒下から離れる。

「気をつけて帰れよ。」

「何、らしくないこといってんの。」

「社交辞令に決まってんだろ?」

「知ってるよ。」

 

もう一歩はなれて、半身だけ彼のほうに身体を向けた。

 

「ねぇ、跡部さん。」

「なんだ?」

 

「俺は雨好きだよ。」

「へぇ・・・。」

 

「だって雨は、なんでも流してくれる、あんたの嘘も流してくれるよ。」

 

そのまま向き直って、少し足早に歩いた。

 

お互いの距離を雨だけが、さえぎって。

振り返らない理由も、後を追わない理由も

そのせいにした。

 

 

 

浸透していく雨粒は

水溜りを作るように

深く  堕ちて

ゆるやかに 濡らした

 

「浸透」

END

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