雨だれの音を聞いて
魂が壊れる音だと
錯覚した
「雨、やまないね。」
不二は窓によって、そっと曇りガラスを拭く。
外にはいよいよ本格的に降り出した雨のが、やむ気配などなく振り続けていた。
「降水確率40パーセントだったはずなんだけど。」
「それは天気予報?それとも乾の予測?」
乾は目を通していた本から少し顔を上げて。
「天気予報。」
「あぁ、それじゃあ、はずれても仕方ない。」
窓から離れて、ベットに腰をかける。
「乾の家に来たのってはじめてかも。」
「そうだっけ?」
言われてみればと、思いつくぐらいの記憶を呼び起こしても、彼がこの部屋にきたとゆう
記憶は出てこなかった。
「雨が降らなければ、僕を部屋に呼んだりはしないだろ?」
「雨が降らなければ、お前が俺の部屋にきたりはしないだろ。」
不二は笑って、乾が見ている本に目をやった。
「何?それ。」
「世界の偉人格言集。」
「へぇ、面白い?」
「・・まぁまぁかな。」
近寄っていた不二の髪が少し濡れているのに気づく。
「タオル貸そうか?」
不二は自分の髪に少し触れて、首を振った。
「大丈夫だよ、これくらい。」
「風邪でも引かれたら困る。」
「それはチームの戦力的に?それとも友人として?」
「両方。」
本を無理矢理閉じさせる。
「必要ないよ。」
「何?もしかして今の答えに不満?」
「かなり。」
「友人としてって答えてほしいのか?」
「どちらかといえば。」
「嘘つきたくないよ、お前には。」
「知ってるよ。」
沈黙さえも、雨が邪魔した。
読みかけの本にしおりを挟んで、机に置く。
これ以上、読んでいても少しも頭に入らないような気がしたから。
「不二、不機嫌?」
隣に腰を下ろして、顔を覗き込んだ。
「雨って嫌いなんだよね。」
「俺はわりと好きだけど。」
「なんで?」
「本をゆっくり読めるから。」
「ごめんねー邪魔して。」
「心こもってなさすぎ。」
「当たり前。」
言葉はすぐに返ってくるけれど、心ここにあらずといった感じに見えた。
「あーあ。早くやまないかな・・・」
「なんでそんなに嫌いなわけ?」
「何、それ・・また僕のデーターに加える気?」
「天才・不二の意外な弱点。」
「絶対、教えない。」
「冗談だよ。」
不二は寝転がって、乾がいるほうとは逆の方向を向いた。
「痛みが彼を支配するから。」
ちょっと意外な答えで、しばらく考えた。
「・・・・あぁ、手塚?」
「雨の日は古傷が痛むんだって。」
「だろうね。」
「知ってたんだ?」
「まぁ、いちお。」
「自分以外が、彼の中を支配してる気がして、気分が悪い。」
乾はずれた眼鏡に手をやって、少し笑った。
「それって、恐ろしいくらいの横暴な考え。」
「恋愛そのものが横暴なもんでしょ。」
「お前らの場合はね。」
不二は何も言わず、ため息をひとつ落とした。
「不二は、独占欲強すぎ。」
何も言わなかったから続けた。
「そんなんじゃ、お前も手塚も壊れるよ。」
不二は体制をかえて、こちらを向き直った。
「いいんじゃない、壊れても。」
「おぃおぃ・・」
「彼と一緒なら、壊れるのも悪くない。」
視線が交差した。
「妬けるな。」
「それはどっちに?」
「さぁ、どっちだろ。」
「乾のそうゆうとこ、好きだよ。」
顔が近づいて、そのままキスをした。
とても、傍観的なキスの味がした。
「ねぇ、僕とセックスでもしてみる?」
「何、いってんの。」
「暇だから。」
「俺はその暇に付き合わされるわけ?」
「僕は乾のこと好きだよ?」
いつものように笑っていた。
「さっきまで、手塚、手塚って言ってた人間が。」
「手塚も好きだよ、でも乾も好き。」
「お前ね・・・」
「何?悪い?」
「悪い。」
「自分だって、手塚も好きなくせに。」
「も?」
「だって、僕のことも好きでしょ?」
もう一度、唇が触れ合った。
今度は少し、背徳的な味がした。
「・・・性本能なしにはいかなる恋愛も存在しない。恋愛はあたかも帆船が風を利用するように、
この粗野な力を利用する。」
「何?」
「オルテガ・イ・ガセーと言う人の格言。」
乾はゆっくりと、不二の上に重なった。
「お前に、ぴったりの言葉だと思ってね。」
背中に手を廻す。
「僕らには・・でしょ・・」
「まぁ、そうとも言う。」
「いいんじゃない?雨が彼を支配してる間に、君が僕を支配してよ。」
「雨がやむまで?」
「そう、雨がやむまで。」
強く、抱きしめた。
規則正しい雨だれの音が
これを恋愛だと
錯覚させた
end